Tsushimamire

Art Punk Rock Trio TsuShiMaMiRe from Tokyo, Japan

(日本語) 「バンドは水物」発売記念レビュー(行川和彦氏)

      2024/03/20

つしまみれ「バンドは水物」スペシャルレビュー

 ジャケットにデザインされたことからもうかがえるように、結成25周年の覚悟が感じられるディープなアルバムだ。
メンバーによれば、オリジナル・アルバムだけでなくライヴ盤、ベスト盤、ライヴ限定販売盤、ミニ・アルバムを含めて、これが20枚目とのこと(CD-Rのリリースとシングルは除く)。まさに記念盤である。

今まで以上に何が飛び出してくるかわからない予測不可能なアルバムだ。
オープニング・ナンバーの「SHOW YOU MY SOY SAUCE」からして、ラップ・メタルかと思いきやドラマチックかつ破天荒な展開を見せ、徳島県民謡の「阿波踊り」の一節“エライヤッチャ”も挿入。こんな離れ業、つしまみれ以外にはありえない。
テレビ朝日『スーパー山添大作戦』の3月度のエンディングテーマになった「24030番地に回覧板を回せ」は、クールなサーフ・ロックンロールで迫る。

SHOW YOU MY SOY SAUCE

24030番地に回覧板を回せ

バンドの心象光景描写のアルバムだから音楽的にもヴァラエティに富み、つしまみれ流のミクスチャーなロックであり、ポップなハイブリッド・スタイルに磨きをかけている。
グルーヴィで味のあるベース、タイトで抜けのいいドラム、やわらかくも狂おしいギター、多彩なヴォーカルが織り成す万華鏡サウンド。
一発録りでなくてもパワフルなケミストリーに包まれ、メンバー間の交感がプレイに表れているから生々しい。
ユーモアの影に隠れがちにも思えるが、つしまみれの真骨頂はビシッ!としたプレイのバンド・サウンド。
ミュージャンシップが高いからこそ、“頓智”も光るのだ。

スタジオ録音ならではの魅力もいっぱいである。
肉体的なサウンドをスピーカーから体感するのが最高なのはもちろんのこと、コーラス・ワークも含めて曲ごとにちょっとした工夫でさりげなく凝った作りだから、ディテールに注意しながらヘッドホンで耳を傾けるも良しだ。
レコーディング中に色々とアイデアを出した、録音/ミックス/マスタリング・エンジニアの中村宗一郎(ピース・ミュージック)も、真にグッド・ジョブである。

日本語の歌を軸にした曲ながら、洋楽のテイストが溶け込んでいるのもうれしい。
特に70年代末以降のニュー・ウェイヴ~ポスト・パンク、オルタナティヴ・ロックの要素があちこちから滲み出ている。
メンバーが無意識のアーティストも含めて書くと、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、フガジ、ジョイ・ディヴィジョン、ソニック・ユース、プッシー・ガロアの遺伝子も漏れ聞こえてくる。

アルバムの前半はわりとノリノリで気持の上でも走る曲が中心だが、後半になると内省的な色が濃くなるのも『バンドは水物』の魅力だ。
6曲目の「サイケデリック自問自答」以降まさに自問自答の曲が連発され、バンドを続けていく彼女たちの苦悩が音や声から聞こえてくるのは、僕だけではないだろう。
ふざけているようで真剣、ほんと生身のロックなのだ。

サイケデリック自問自答

地味に見えて本作の中核を成す「Color」を挟み、クライマックスの高みにアガっていく重要曲が「バカ元カレー」と「より戻シチュー」。
対の関係の2曲だから共にミクスチャー・ロックだが、単なる一種のラヴソングに留まらず、それぞれの曲に込めた思いがサウンドになっているところに注意するとまた格別だ。

10曲目の「迷曲」というタイトルは謙遜しすぎで、照れ隠しでそういう曲名にしたとしか思えないほど正真正銘の名曲。聴けばわかる。
シンプルだからこそ深く感動的だ。

その穏やかな余韻をデストロイ!するラストのアルバム・タイトル曲、失神必至である。
わらべうた「通りゃんせ」の一節を絶妙に挿入し、1曲目と同じく日本の伝統的な歌の面白さも再認識させる“つしまみれ節”。
そして何より、コンスタントな創作とツアーでハードなバンド活動続ける強靭な心の火花が、サウンド化しているところが素晴らしい。

歌詞はメンバーが普段思うことがモチーフのようだが、普遍的に綴られている。
ダジャレや言葉遊びはますます絶好調だが、シリアスな色合いも濃くてグッとくる。
松田聖子からケイト・ブッシュまでをフォローする本格歌唱力のヴォーカルも、ますます聴きごたえ十分。ほんと声が年々よく出る一方だし、芝居がかった歌い方とは無縁でしっかり発声する歌い方。
まりの声にウソはない。

25周年で加速するフラストレイションがモチベーションの一つのアルバムである。
ハングリーなアスリートのように切磋琢磨、だから確かにロックしている。
アルバム・カヴァーをはじめ、幾度目かのアメリカ・ツアー中の写真で彩ったカラフルな12ページのブックレットもひっくるめて、光が見えてきて解き放たれる最高傑作だ。

(行川和彦)