「酒まみれ」発売記念レビュー(行川和彦氏)

   

つしまみれ「酒まみれ」スペシャルレビュー

『ラッキー』から1年ぶりの通算17作目。
またまたつしまみれににしかできない、つしまみれにしか作れないアルバムだ。
『酒まみれ』というアルバム・タイトルからして、つしまみれワンアンドオンリー、
トータル・タイム25分28秒だろうと、濃いから、いい意味で長く感じる9曲入りである。

テーマは酒。
メンバー3人が酒豪かどうかは断定できないが、
最初にインタヴューした際、
まりに「お酒飲みますか?」「どこで飲みます?」「いい飲み屋さん知ってます?」と尋ねられただけに、
“かなりのもの”と勝手に解釈させていただいた。

つしまみれには、
『つしまみれとロックとビアで』(2008年)というCDが存在する。
2010年のCD『Sex on the Beach』のアルバム・タイトルとタイトル曲は、
けっこう有名なカクテルの“セックス・オン・ザ・ビーチ”と同じである。
さらに「アナーキーモーニング」(2018年のCD『NIGHT AND MORNING』に収録)という
“飲酒失敗体験記”の名曲も存在する。
まり曰く「“ちょっとやっちまった”みたいな感じで、
女の子なら誰でもあるんじゃないかなっていう、
酔っ払って起きたら知らない人が隣に寝てたという歌」である。

というわけで、つしまみれが今回のような酒まみれのアルバムを作るのは時間の問題だった。
“酒通”のつしまみならではのお酒のテイストにフィットした曲と歌詞で、
ビール、焼酎、ウイスキー、ウォッカ、テキーラ、日本酒、ワインがネタの7曲を次々と飲み干し、
酔い酔いの終盤は“酒の宴”の2曲で構成。
ちょい通好みの酒のウォッカとテキーラを歌いつつ甘口基本のカクテルの曲がないのも、つしまみれらしい。
僕みたいな酒好きにはたまらないCDだが、
そうでない方もスカッ!と酔えるアルバムである。
“つしまみれ第四のメンバー”とも囁かれる中村宗一郎がエンジニアに就いたことも奏功し、
歌詞だけでなくサウンドそのものでも表現されているからだ。

オープニング・ナンバーの「ビール」はタイトルそのまんまの曲。
今の若い人は違ってきているようだが、
“ある程度の年齢以上”の人の多くが飲み会で頼む最初の一杯はビールだから一曲目はビールである。
“スカ・ロックンロール”からサビではスリップノットみたいに畳みかけて“おかわり”が止まらない曲だ。

 https://ssm.lnk.to/Beer

2曲目の「SHOT YOU」は焼酎がモチーフで、
つしまみれ得意のダジャレでもあるしダブル・ミーニングとも言えよう。
世界を憂えるような歌詞にも思えるが、だからこそ音楽の可能性を信じ、つしまみれは進み続けている。
早口トーキング・ヴォーカルとハードコアがかったパンク・ロックを基本に、
つしまみの原点のミクスチャー・ロックな展開も見せるへヴィなジェットコースター・サウンドだ。

「SHOT YOU」https://ssm.lnk.to/SHOTYOU

3曲目は「ウイスキーちょうだい」。
大人を意識する強めの酒のウイスキーがネタだ。
歌詞に出てくる“ダルマ”は、
ダルマみたいな瓶の高級ウイスキーの“老舗”サントリーオールドのことだろう。
ブックレットの歌詞の“ウヰスキー”という表記はニッカウヰスキーをイメージする。
ちょっと洒落たヘヴィ・ジャズ・ロックから〜ハードコア・パンクに加速するサウンドは、
ウイスキーでハードに酔っていく流れみたいである。

4曲目の「日本酒」も曲名そのままのテーマだが、
セレクションが心憎いおつまみを並べながら日本酒の深さと日本の飲食文化の情趣が何気に表現されている。
曲と音は和風の侘び寂びを突き抜けてダブ・ファンクからサーフ・ロックになだれ込むが、
まりの冷静なヴォーカルは冷酒そのものの味わいだ。

5曲目の「ウォッカウォー」もユーモラスながらシリアスである。
ウォッカといえばソ連〜ロシアで、
まり得意の七変化ヴォイスで意味深な単語が次々と迫りくる。
ハードコア・パンクにニアミスしたポルカのリズムの疾走感がロシアの混沌をイメージさせ、
ロシアの現大統領のプーチンではなく、
80年代後半のソ連の自由化の立役者になったゴルバチョフの名前がたびたび登場するのも興味深い。

6曲目の「オレ!テキーラ」は、メキシコがルーツのテキーラがテーマだけに曲はハッピーなラテン調。
意味不明の歌詞にも思えるが、
クセの強いテキーラのテイストが味わえる言語感覚である。

7曲目の「わたしワイン」は、つしまみれのアルバムで外せないまっすぐメロウな歌ものだ。
ワインからイメージされる僕の妄想も相まって色々な意味でトータルなラヴ・ソングに聞こえるし、
まりがやさしい声からハイ・トーンで歌い上げていくスケールの大きい感動的な曲だ。

しっとり聴かせた後に続く8曲目が「乾杯まみれ」というのも、つしまみれらしい落差。
世界中から集まった「カンパイ!」の声で作り上げたユニークな“小曲”である。

そしてラストの9曲目は、1979年から無数の酒好きが歌い継いできた「日本全国酒飲み音頭」のカヴァー。
一杯飲み屋でのライヴみたいな雰囲気のアコースティックな仕上がりで、
“酒焼け”した歌と音が最高の宴を演出しているのであった。

2021年で結成22年。
しぶとい。
根性あるところは体育会系、
と同時に最近“ガールズアートパンクロック”を標榜しているように意外と“アート”な感覚も。
アートと言ってもアカデミックやスノッブとは正反対の生活感あふれる“アート”。
でなきゃ酒まみれのCDは作らない。

“ガールズ”というのも微妙なようで、
いくつになっても“ガールズ”の心意気なのが、つしまみれ。
といってもオシャレな“ガールズ”とはちょっと違う微妙に“ハズした”感覚の“ガールズ”。
愛嬌たんまりだ。

つしまみれ以外にはありえない“アウトサイダーぶり”に磨きをかけているのは、
16ページのブックレットのアートワークでも実感する。
2019年12月のライヴを収めたDVD『つしまみれ20周年記念ワンマン 完全版』のパケ写が、
表も裏もロック感に満ち溢れていて実にクールだったから遂に路線変更か!?とも思った。
けどそのアートワークは“番外編”であった。
今回も例によって微妙にハズしている。
だからこそ、つしまみれ、なんである。

ビールの中でシンクロナイズドスイミングというのは謎だが、
つしまみれは知性や論理を超越している。
でももちろんお馬鹿なバンドではなく、
今回も歌詞はさりげなく的を射た批評テイストも含んでいるのであった。

“ふるまい酒”みたいな快作だ。

(行川和彦)

タイトル:「酒まみれ」
アーティスト:つしまみれ
発売日:2021年11月17日(水)
流通:スペースシャワーミュージック / レーベル:Mojor Records
品番:DQC-1659 / 価格:税抜2500円 税込2750円

【収録楽曲】
01. ビール
02. SHOT YOU
03. ウイスキーちょうだい
04. 日本酒
05. ウォッカウォー
06. オレ!テキーラ
07. わたしワイン
08. 乾杯まみれ
09. 日本全国酒飲み音頭(カバー)

【購入者特典】
★初回封入特典「酒まみれ」オリジナルステッカー
※初回封入特典仕様のパッケージには、目印のシールを貼り付けてあります。

★タワーレコード限定特典「酒まみれ」特製コースター
※メンバー監修のスペシャルコースターです。

■ライブ情報
2021年11月26日(金)新宿LOFT
つしまみれレコ発ワンマン「酒まみれ」
時間:OPEN18:00 / START18:30
チケット:前売¥3500+1drink / 当日¥4000+1drink
来場者特典:つしまみれ特製「酒まみれ」ミニマガジン、ふるまい酒

チケット前売り予約:info@tsushimamire.com (お名前、枚数、連絡先を送信してください。)
イープラス: https://eplus.jp/sf/detail/3509350001-P0030001P021001?P1=0175

配信チケット:料金1500円(税込み) 投げ銭あり
(販売期間:11/12(金)18:00〜11/29(月)21:00)
URL https://loft-prj.zaiko.io/_item/344262